一人一人が命を守る行動を

一人一人が命を守る行動を

2021.8.13
院長ブログ

今日の東京都の新規新型コロナウイルス感染者数は、なんと5773人でした。

仕事をしながらその数字を知って、本当に頭が真っ白になって腰が抜けるように座り込みました。たぶん、頭も抱えてた。

様々なシミュレーションで今月末には新規感染者数が1万人を超えるであろうことは頭では若手いるのですが、こうして現実の数字として、高い陽性率とともに突きつけられると愕然としてしまいます。

「新型コロナウイルス感染症(以下、単純にコロナ、とします)の中等症患者を自宅で診られるのか?」と問われたら、僕は「中等症患者は自宅で診るべきではない」と断言できます。

なぜか?現在デルタ株への置き換わりが急速に進み、市中感染のおよそ8割がデルタ株と言われています。感染力が強く、重症化までの経過も早く。それに、重症化の予測が難しい。これまでよりも若い世代の重症患者が従来株と比較し増加している。

医療資源が追いつかないペースで爆発的に増え続ける重症化する患者を自宅で治療するときに使える者は、ほぼほぼ在宅酸素とデカドロンしかありません。

*イベルメクチンについては一部の医師がその有用性をまことしやかに吹聴していますが、質の高い臨床試験で否定され、販売元もコロナに使うべきではないと勧告を出している状況です。私としては、気休め程度であってもリスクをはらんだ薬ですから使用していません。

在宅酸素についても多くの場合、最大酸素供給量は5L程度しかありません。今日入院できた患者さんは、病院に到着した瞬間15Lもの酸素吸入が開始されたようです。逆を言えば、家では病院の3分の1の治療しかできないともいえます。

また、デカドロンについても抗炎症作用というメリットがある一方で、高血糖性の合併症の可能性があります。例えば糖尿病患者、脱水傾向の患者さんがこの薬を内服したことで高血糖性の意識障害を起こしたら、どうしましょう。本来なら病院で、基礎疾患によっては頻回の採血や血糖のモニタリングをして、輸液管理をしながら使うべき薬です。それを、ほぼほぼ盲目的に自宅で飲んでいただくしかない。

また、入院すれば有効性が示された薬が複数使えます。

医療資源(治療の選択肢)に限界があり、治療の副作用があり、直接的な状態観察の頻度も落ちる自宅のような不十分な環境。こんな環境で本来入院して治療すべき中等症IIに該当する患者さんは本来見るべきではありません。それを自宅という環境で診ないといけない今の状況を医療崩壊と言わずしてなんと言うんでしょうか。

そして来週の今頃は、自宅で血中酸素飽和度が下がって意識がおかしくなっても、もだえるような苦しみの中であっても、医者が診にきてくれない、いや、診に来ることができる医者がいない、と言う状況になっている可能性もあります。これはまさに地獄絵図です。

当院のマンパワーの限りがあります。

守るべきかかりつけの患者様がいます。

守るべき職員がいます。

そして、守るべき僕の家族もいます。

すべての患者さんに対応しきる自信がありません。沖縄で医師として歩み始めてから、これまで一度も患者さんの依頼を断ってきたことがありませんでした。僕は医師人生8年たってついに、患者さんの依頼を断らないといけなくなっています。これは本当につらいです。

今みたいな生き地獄のような状況を打開するためには、新規感染者数を減少させるしかありません。国民一人一人に危機感を持って行動を見つめ直してほしい。外食するなと主張しているのではありません。会食するなら飛沫を飛ばさないような食事を少人数でしてほしい。ワクチンを打ってほしい。

ハイリスクな行動をとり続ける人は、自らの命を危機にさらしているような者です。これからコロナにかかって重症化する人は適切な治療を受けられない可能性があります。医療が届かず、誰の目にも触れず、保健所からの電話も追いつかず、部屋で、苦しみもがきながら、意識がおかしくながら、尊厳を失いながら最期を迎えてしまうかもしれません。

コロナでなくても、です。他の病気でも病院はすでにいっぱいで入れなくなっているかもしれません。病院に空きはあっても、街中で救急車が行き場を失い搬送に多大な時間がかかり重症化するかもしれません。

現状を政府や国のせいにするばかりではなく、このような未曾有の災害の中にあっては、一人一人が命を守る行動をとらなければならないと危機感を募らせています。