新型コロナウイルス感染症の類型移行についての想い

2023.5.8
院長ブログ

令和5年5月8日、本日を持って新型コロナウイルス感染症の感染症法上での取り扱いが、2類相当から5類に変更になります。2021年の厳しい状況を直視したものとしては、一区切りつく今日を迎えることで感慨深いものがあります。

院長個人としては、類型移行を迎えるための実効性のある準備が社会的に整っているとは言い難いですが、この時期に新型コロナを取り巻く方向性が変わる事自体については概ね好意的に捉えています。それは、社会全体が新型コロナを生活の一部として受け入れ、共存の道を探り始めているからです。確かに今現在は新規感染者数が徐々に増加しており、検査の陽性率も上がっています。死亡報告も散見されますが、(今は)入院病床が逼迫している状況ではありません。現状において、「類型移行反対!」「ゼロコロナ対策!」など僕が声を上げたとて、社会へのインパクトは露ほどもなく、医学界からも「あいつはいつまであんなこと言ってるんだ」と白い目で見られるのがオチでしょう。無論、現実問題として今自分が心から危機感を抱いているのであれば反論の声もあげられるのでしょうが、最近の感染者のリアルな姿を見ている立場として、これまでよりも新型コロナとの付き合い方がわかってきていることと、(今は)重症化する人の数も限られているので、こういったトーンでの受け止めになります。

さて、新型コロナの類型が変わることはあくまでも感染症法上での取り扱いが変わるに過ぎません。それはつまり、感染抑制(簡単に言えばゼロコロナという目的)から共存(まさにウィズコロナ)を目指すというベクトルに変わるということです。僕が懸念しているのは、ウィズコロナに伴う過程でこれから経験する可能性がある混乱についてです。

具体的にあげます。

・受診先

どこでも受け入れられるようになる、という思い込みが世間にはあります。しかし、あくまで診る診ないは院長の胸三寸です。数字上は対応可と謳っていても、実効性があるかは不明です。これまで頑張ってきた医療機関が、「5類になってほかも対応できるだろうから」として診療枠を縮小することもあります(当院もそうです)。

病床補助金も縮小されます。もともと入院ベッドはコロナ以外の病院で慢性的に不足気味でした。これまで専用病床として準備されていたところも、縮小されていくでしょう。時間をかけて対応医療機関は増えるのでしょうが、それまでの期間は対応力が減ってしまうのではないかと見ています。

・入院調整

これからは中等症II以下の患者さんの入院調整は医療機関同士で行うことになりました。これはなかなか深刻です。というのは、新型コロナでは「酸素飽和度は維持されているが、消耗が激しい人」というのがそれなりに出てきます。通常の診療所のレベルで、感染が流行したときにその人達全員の入院調整を行うのはとても厳しいです。「入院調整の手が空かないから、新たに入院調整が必要になりそうな人は診察を断らざるを得ない」ということが生じる未来が想像できます。また病院側においても、「Aクリニックを断ったらB医院からも電話が来て、その後にCクリニックを断って、、、」ということになるかもしれません。

東京都ではMISTというシステムで毎日各病院の飽き状況を見ながら入院調整を行うことになりますが、結局は病院間でも地道なやり取りが必要なので、なかなかワークしないのではないかと思っています。今後の流行状況によっては、セキュリティの保たれた民間などに委託して入院調整を一元化するというアイデアも良いのではないでしょうか。

・費用の問題

これからは診察、検査に費用負担が発生します。これについては致し方ないことと捉えています。それでも、入院できずに往診でしか医療介入できなかった方が「たった15分の往診でこんなにも請求するのか!」などのトラブルが起きかねません(これまでもたくさん起こっていました)。また、秋ごろから抗ウイルス薬も自己負担が出てきそうですが、有効性の高いパキロビットは3割負担で3万円、1割負担でも1万円くらいします。これは相当負担で、そのせいで治療を諦めてこじらせる、という人が出てきてもおかしくありません。

高くて効かない薬は淘汰されるので放っといてもいいのですが、高くて効く薬というのは社会的に大きな負担となってしまうので、国の方々にはなんとか解決策を模索してほしいと期待しています。

・医療資源が分散される

これは今に限ったことではないですが、日本において新型コロナで医療崩壊を招いてしまったのは、ヒト・モノ・ハコといった医療資源が分散していたのは大きな原因であると見ています。

今後の流行状況によっては、コロナ治療センターなる設備を立ち上げ、そこに医療資源を投入してフル稼働させていただくようなシステムを検討しておくのが良いのではと思っています。そうした施設のon/offの基準も明確にしておくべきでしょう。

お昼休みにつらつらと書きましたが、「今の流行状況、病原性などを鑑みると社会がウィズコロナに向かうのは賛成だけど、事態が悪化した場合にハイリスク層を難民化させない、社会を混乱させない準備も必要だよ」というのが僕のスタンスです。

新型コロナウイルスといえど、本来コロナウイルスはいわゆる風邪ウイルスの一つです。新型コロナウイルスが形質転換を経て、病原性が失われていき、自然界に戻っていってくれることを切に願っています。何より今年こそ、気兼ねなく海外旅行に行きたい、というのが僕の密かな願いです。