第6波の所感(2月中旬編):高齢者への広がり

第6波の所感(2月中旬編):高齢者への広がり

2022.2.16
院長ブログ

第6波に入ったことを実感するようになっておよそ1ヶ月が経過しました。

8月に入ると同時に始まった第5波でしたが、8月下旬になるころには随分と波が引いてきたような印象でした。一方、第6波では1ヶ月たっても波が引いたなという感触はありません。報道される1日の感染者数は減ってはいますが、そこに占める患者さんの特に年齢層が変化してきており、数に現れない負担感が鈍く続いています。

【若者は減少】

1月中下旬は20代〜40代といった若い世代の検査希望者が殺到し、1日20−30件ほどに達することも有りました。2月中旬ごろからは1日5−10人程度に減っています(当院が訪問診療クリニックということも有り近隣の医療機関よりは少なめです)。

【高齢者が増加・重症化】

 最近では自宅や施設で待機する高齢者へと診察する対象がシフトしています。服薬支援や独居患者の安否確認を含めると1日約10件程度往診しています。

 当院かかりつけの患者さんにも、発熱された方に検査をすると新型コロナ陽性となることが続いており、やはり高齢者層への広がりを日々実感するところです。感染契機としては、デイサービスや施設などの高齢者施設内感染が多い一方で、日々の生活の中で感染してしまう方もいらっしゃいます。

 高齢者では自覚症状を訴えにくい方も多く、発症時点で新型コロナによる肺炎に至っている方も少なく有りません。様々な理由でワクチンにたどり着けなかった方もいて、そういう方は重症化しやすいので当院としても緊張感が高まっております。

 第5波では若者の重症化がメインでありそれはそれで過酷でしたが、高齢者に感染が広まってきている第6波では、また違った大変さがあります。

【高齢者ならではの問題】

 高齢者ならではのポイントというのはいくつかあります。

 ① 基礎疾患をお持ちの方も多いので、例えばもともとの持病である心不全やタバコ肺(COPD)、腎不全などを”こじらせてしまう”場合があります。新型コロナだけを診ていると、そういう持病の悪化を見落とすことが有りえますので、たとえ新型コロナ陽性となってもあえて”それ以外”に目を向けた丁寧な問診や診察が重要となります。

 ② 年齢的にも認知機能が低下している方が少なく有りません。そのためにご自身の症状を正しく外部の人に訴えられず症状の悪化を招くことがあります。また、複数の内服薬の管理が困難になり過剰内服や飲み忘れが起こりやすくなります。さらにマスクなどの感染防護具を適切に使用することがしばしば困難です。そして、ご自身が新型コロナであることを理解できないという状況が多々みられます。そもそも「新型コロナって?」という場合も多いので、診断後もマスクを付けず外出されてしまう、という場合も散見されます。

 ③ ご高齢で認知機能が低下しながらもお一人暮らしの方が都内には数多くいらっしゃいます。①や②の場合でも同居のご家族がいる場合はその目が届きますが独居ですと看護の目が入りにくくなってしまいます。訪問看護師さんやヘルパーさんの支援を要することがありますが、まだまだ新型コロナ患者さんへのヘルパーさん対応は十分とは言い難く、新型コロナと診断された瞬間ヘルパーが入れなくなり介護環境が悪化してしまうという逆説的な減少が見られることもあります。

④ これも認知機能低下による影響がある場合が多いのですが、入院の順番が来ても拒否しちゃう方もいます。病識(自分が新型コロナであるという認識)がないために、入院できますよ、となっても「その必要はない」と拒否してしまう。私達も説得を試みますが、結局は本人の意志が最優先なので時間的制約もあり諦めざるを得ない場合もあります。その後さらに状態が悪くなってしまい、再度入院調整となり治療までに時間を要してしまうケースも少なくありません。

【施設患者の問題】 

 最近は高齢者施設でのクラスターが散見されます。自宅療養者と異なり施設入居者は、施設内に医療関係者がいるために看護・介護の最低限度の質が確保されていると判断され、入院に時間を要す場合がほとんどです(少し悪化していても入院できないことも多い)。しかしながら多くの施設では医師不在どころか看護師すらごく少数もしくはいないという状況です。感染対策に明るくない介護職員しかいない状態で感染者と非感染者を分けた対応(ゾーニング)を”見よう見まね”でやらざるを得ないケースが多く、不十分な感染対策で感染拡大をきたしているケースが目に付きます。しかし、職員を責められるかというとそうではなく、少数の介護職員が不慣れな医療的なケアを多大なるストレスに晒されながら対応せざるを得ないという状況では致し方ないなと思わざるを得ません。

 施設内では陽性者が施設内を徘徊したり、マスク着用をせずに他の利用者とお話したり、耳が遠く近接して大きな声で話しかけないといけなかったりと、非常に厳しい状況です。

【消耗しきった状態で退院してくる、という状況も】

 無事に療養期間を終えて新型コロナから立ち直ったあとでも、速やかにもとの生活に戻れない方もいらっしゃいます。「病原性が低い、低い」と言われているオミクロン株とはいえ、ひどく消耗される患者さんがいらっしゃいます。特に中等症IIともなると比較的高用量のステロイドを用いた治療が行われますが、ただでさえ肺炎で弱ったところにステロイドによる副作用で筋力が低下する場合があり、”新型コロナは良くなったけど、寝たきりになってしまった”という方が続出しています。

 本来、急性期疾患(心不全や一般的な肺炎など)の治療のために筋力低下などでの生活機能が低下した場合(これを”廃用”といいます)は、回復期リハビリ病院などにお引越ししてリハビリに励み体力を回復させて自宅や施設に戻ります。しかし現在のようなコロナ禍では、回復期病院の空きも少なく、また感染リスクがゼロとは言えない患者さんを積極的に受け入れる病院も限られるため、一番消耗しきった状態で自宅に帰ってくる、という方は多いです。

 そのため廃用してしまった患者さんには、当院のような訪問診療クリニックが、地域の訪問看護師さんや訪問リハビリの方と協力して、”在宅入院”のような環境を整え、新型コロナ後の機能回復に向けた支援を行うこともあります。

【高齢者の死亡者の増加】

 各種報道にもありますように、第6波での死亡者は第5波での数字に迫りつつ有り、自治体によっては第5波を超えています。

 オミクロン株は軽症という言説が安易に流布されていることには懸念があります。フルワクチンかつ基礎疾患のない若い世代ではそう言えそうですが、リスクの高い方にはやはり新型コロナとしての変わらぬ恐ろしさがあることは間違いありません。

「death with COVID-19」と「death by COVID-19」を分けるべきだという主張も散見され、言わんとする事に一定の理解はできますが、いずれにせよ新型コロナでなければ失われなかった蓋然性の高い命ですので医療職としましてはwithでもbyでも安易に許容することはできません。あえていいますが、withであれbyであれ、新型コロナに関連した死をゼロにすることを目標にしようと、新型コロナに対するファイティングポーズを緩めない、というのは医療人として当然の姿勢でしょう。

【最後に】

 報道される1日の感染者数が減少傾向に転じ、やや楽観的な情報が出てくるようになった2月中旬ではありますが、現場(というより患者さんの状態)はまだまだ厳しいのが実情です。

 お読みいただいている皆様に「緊張感を持った対応を!」などと声色の強いことを伝えるのが今回のブログの目的ではなく、あくまで訪問診療医の立場からみた今の状況を記録する目的で書き連ねてみました。

 高齢者などへのブースター接種が当院でも始まりましたが、高齢者の多くがブースター接種をすませて、2週間程度経過するまでは今のような状況が”鈍く”続くのだろうと感じています。3月中旬くらいまでは気が抜けなさそうです。