オミクロンとの付き合い方

2022.1.23
院長ブログ

前回私は、「台頭する株に応じた付き合い方を考えないといけない」という趣旨を述べました。

分科会が提言したものの、さまざまな批判を招き後に撤回された「検査をせずに臨床診断し節度のある療養生活を送ってもらう」という旨の付き合い方は、現実的な考え方です。

https://www.news24.jp/articles/2022/01/21/071019927.html

これは一般の方にはなかなか理解していただけないことなのでしょうが、病気を診断するのは検査キットの結果のみに基づくのではありません。あくまで、診断は医師の判断に拠ります。そしてその診断において最も重要なのが”検査前確率”です。つまり、検査をする前において、その疾患である確率がどの程度か?ということです。もっとわかりやすくいうと、「この瞬間、その病気がどのくらい患者の周囲に蔓延っているか」という指標が検査前確率です。

今みたいに日々コロナの新規陽性者が数千人発生している状況では、発熱の原因がコロナである可能性がとても高くなるので、典型的な症状やエピソードがあれば検査をせずにコロナと診断する(コロナと想定した対応を開始する)ことも十分あり得ます。

たとえば、「数日前に一緒に飲んでいた友達がコロナになった。自分も今日から熱が出て喉が痛い」というような場合は、ほぼ確実に”自分”もコロナです。私なら検査をせずに「あなたもコロナと臨床診断できるので家で安静にしてください」と言い切ってしまいます。極論すれば、仮にこの人がコロナの抗原検査で陰性でも、「コロナ」と臨床診断します。検査キットの診断能力は100%ではありません。

こういうほぼコロナであることが明白な人まで検査のためだけに発熱外来に来てしまうのは、移動中の感染拡大のリスク、検査キットの消費(浪費)、通常診療の制限、医療費の増大などからあまり好ましくないでしょう。何より無駄な体力を消費してしまいます。オミクロンが台頭する今、基礎疾患のない若者はほぼ数日で解熱し症状は改善するので、わざわざ体のつらさがピークの時にリスクを背負って外に出て行く必要もないのかな、と思います。

なおこの場合の問題点としては、発生届けが出されず感染の実態が掴みにくくなる、ということが挙げられるでしょう。しかし、オミクロン株が台頭する現時点では、全ての患者における発生届けという存在は、手段と目的が倒錯しており意義の乏しいものと思われます。意義が乏しい、というよりも人も、煩雑な事務処理が発生し医療機関や保健所の機能を逼迫する負の存在かもしれません。

現状では、重症化リスクが高いと思われる人のみ発生届けという名の入院調整依頼を保健所を通して都の調整窓口にあげる、というように対象をセレクションしてもいいのではないでしょうか。

重症化リスクが低く、「直近コロナ患者と接触した」といった”コロナっぽい”蓋然性がある場合は、検査を受けずともコロナとして自宅療養をする、というのは現実的な選択肢です。

一般の方が「検査をせずに療養しろというのは受け入れがたい!」と反応するのはまだ理解できますが、医師でもいまだに全数検査・隔離!と主張する人もいて、臨床感染症や公衆衛生学をあまりわかっていらっしゃらないのだろうかと怪訝に思わずにはいられません。

政治家にも不信感が募ります。尾身会長(分科会)が、「検査せずに療養することもありうる」「人流抑制より人数制限を」などといった提言をなさるのは、オミクロン株の特性を見極めていらっしゃるからだなと、私は僭越ながら前向きに評価していました(過去形なのは一部撤回されたから)。一方で、医療の専門家の提言に対して政治的観点から苦言を呈する政治家の姿勢には、柔軟性と専門性へのリスペクトが感じられず残念な思いになるばかりです。