ひなたで支える認知症ケア~5つの事例から学ぶ、その人らしい暮らし~
こんにちは!ひなた在宅クリニック山王 原田です。
最近はあたたかい日も増えてきて、外で遊ぶ子供たちをたくさん見かける様になり、町全体が少しずつ春の空気に包まれてきているのを感じます。
さて、今回は普段からご相談の多い【ひなたの認知症ケア】についてお話していきます。症状の特徴やご家族が感じやすい負担、日々の関わり方などわかりやすくお届けいたします。

はじめに
【認知症】という言葉を聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか。“記憶が失われていく病気”という様なネガティブなイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし実際には、認知症の症状はひとりひとり大きく異なります。私たちひなた在宅クリニック山王では、日々さまざまな認知症の方のご自宅を訪問し、その方らしい暮らしを支えるお手伝いをしています。今回は、私たちが実際に経験した5つの事例をもとに、認知症の方との向き合い方についてお伝えしたいと思います。(※プライバシー保護のため、内容は一部変更しています)
事例① 「この家を離れたくない」一人暮らしのAさん(80代・女性)
夫を早くに亡くし、長年一人で暮らしてきたAさん。「最近よく転んでしまう」、「買い物に出たのになぜ外出したか分からなくなった」という出来事が増え、少しずつ認知症の症状が進んできていました。そんな姿を心配したご家族。「少しでも安心できる生活をしてほしい」という思いから施設への入所を提案しました。しかしAさんは拒否。「住み慣れたこの家で最後まで暮らしたい!」という強い思いがありました。ケアマネージャーとも相談し、Aさんの強い意志を尊重するため、訪問診療・訪問看護・ヘルパーが連携して在宅生活を支える体制を整えました。
現在はさまざまな支援、さらに近所の方が様子を見に立ち寄ってくれるなど地域の皆さんの助けもあり、Aさんは今もお元気に一番安心できる自宅で過ごされています。診察に伺うと「今日も先生が来てくれた」と笑顔を見せるAさんの姿は、“安心して自宅で過ごしてもらう”という在宅医療の原点を私たちに教えてくれます。一人暮らしだからこそ、多くの目と手で支えることが大切です。
事例② 「飲んだかどうか、わからなくなって」服薬管理に悩むBさん(70代・男性)
高血圧と認知症を抱えるBさん。毎日の薬を飲んだかどうか覚えていられず、飲み忘れや二重服薬を繰り返していました。このBさんの状態は「意志が弱い」「だらしない」のではありません。これは認知症による記憶障害が原因で日々の服薬という当たり前の行動を難しくさせていたのです。
ご家族と相談し、仕組みを支えるため、訪問薬局さんへ依頼し、お薬カレンダーを導入しました。さらに、ヘルパーさんによる服薬確認や訪問時のチェックを組み合わせることで、Bさんの服薬状況は徐々に安定していきました。“工夫した環境作りで支える”その発想の転換がBさんとご家族の大きな安心につながりました。
事例③ 「会社に行かなければ」電車で遠くまで行ってしまうCさん(80代・男性)
「早朝、気づいたらCさんがいない」ご家族が探し回ったある日、Cさんは電車で隣の市まで移動しているところを警察に保護されました。「なぜそんな所まで?」と思われるかもしれませんが、Cさんの頭の中には「会社に行かなければならない」という現役時代の記憶が鮮明に残っており、それは“大切な役割を果たすための行動”だったのです。その後、Cさんの行動の背景を理解したうえで、ケアマネジャーと連携し介護サービスの導入につなげました。
徘徊は、ただの迷子ではなく、本人にとって切実な理由が隠されていることがほとんどです。“どこへ向かおうとしていたのか”、“なぜそこへ行こうとしたのか”その理由に耳を傾け理解することが、安全な支援への第一歩となりご家族の安心にもつながっていきました。
事例④ 「泥棒がいる!」妄想・幻視により警察を呼んでしまうDさん(70代・女性)
「財布を盗まれた」「知らない人が部屋にいる」——Dさんはそう繰り返し訴え、警察に通報することが続きました。ご家族は何度も「そんなことはないよ」と否定しましたが、Dさんの不安は消えず訴えは止まりませんでした。
認知症による幻視や物盗られ妄想は、本人にとってはリアルな現実です。周囲から見ると“事実ではない”ように思えても、本人にとっては確かに“起きている現実”です。私たちはDさんへ“否定も肯定もしない対応”を心がけ、不安な気持ちに寄り添う声がけをし、自宅を整える環境作りを取り入れていきました。一方で介護者であるご家族の心身の疲労も深刻でした。そこで定期的なレスパイトを利用いただき介護の負担が少しでも軽減できるよう支援を整えてきました。本人の不安に寄り添いながら環境を整えること。そして、支える家族自身が休むこと。
その両方が、Dさんの暮らしを守る大切な支援となっていったのです。
事例⑤ 「別人になってしまった」怒りが止まらないEさん(70代・男性)
穏やかで優しかったEさん。しかしある時期から些細なことで奥様に声を荒げるようになりました。「もう別人みたい」と涙を流す奥様の姿が今でも忘れられません。
認知症が進むと、脳の機能変化により感情のコントロールが難しくなります。それは決して“性格が悪くなった”のではなく、れっきとした“病気の症状”です。ご家族にそのことを丁寧にお伝えしながら、怒りを誘発しない関わり方や、気持ちを切り替えるための声かけの工夫を一緒に考えていきました。奥様も少しずつEさんの変化を“責めるべきこと”ではなく“理解すべき症状”として受け止められるようになってきました。ご家族の寄り添う気持ちのお陰で、Eさんの怒りの頻度は少しずつ減り、奥様の表情にも笑顔が戻ってきました。

おわりに
認知症の方が抱える困りごとは本当に千差万別です。しかし、どの方にも共通しているのは、“その人らしく、住み慣れた場所で暮らし続けたい”という切実な願いです。
ひなた在宅クリニック山王では、ご本人だけでなく、支えるご家族の気持ちにも寄り添いながら、在宅での生活を全力でサポートしています。中には「こんなことを相談してもいいのかな」と遠慮がちにお話しされる方もいらっしゃいます。大丈夫です。どんな小さな事でも気兼ねなくお声がけください。わたしたちは“いつでも・すぐに”を大切にし、困ったときに真っ先に思い出してもらえる存在でありたいと考えています。ご家族の生活リズムに寄り添いながら、その方にとっての「ちょうどいい暮らし」を一緒に見つけていくこと——それが私たちの大切な役目です。


この記事を書いた人
ひなた在宅クリニック山王 連携担当 原田 (2023年4月入職 管理栄養士の資格も持っております)
総務業務の他、関係事業所との連携を行っております。また在宅医療や食事・栄養をテーマにしたセミナーも実施しております。大田区・品川区・港区・目黒区を自転車に乗って日々訪問しております🚲️在宅医療に関する質問などありましたらお気軽にご連絡下さい☺
