訪問診療を始めるタイミング(がん患者さん向けの内容です)

訪問診療を始めるタイミング(がん患者さん向けの内容です)

2020.5.18
院長ブログ

「どのタイミングで訪問診療をお願いして良いいかわからない」というご質問をしばしばいただきます。

 一般的には訪問診療開始のタイミングは「通院困難」とされていますが、訪問診療を開始したほうがいい通院困難度はその程度は患者さんの状態によって様々です。

今回は、特にご質問として多いがん患者さんの訪問診療開始のタイミングを取り上げます。

まず、実例です。

①『最期まで自宅で過ごしたいけど、まだ通院もできている。そのうち訪問診療を頼もう、、、と思っているうちに時間が過ぎてしまい、気がついたら呼吸が止まっていた。前OOさんに聞いていた在宅クリニックに電話してみよう、、、』

②『ご飯を食べられなくなってきて、寝ていることが増えた。あと1ヶ月くらいは持ちそうだけど、いざ訪問診療の医者が来たら「この数日がヤマでしょう」といきなり言われて驚いた。心の準備をするためにも、もっと早く訪問診療を初めておけばよかった』

①は極端な例のようですが、実際に何回かありました。夜中に電話がかかってくることもあります。大変残念ではありますが、普段診ていない患者様のお看取りは私たちではできません。かかりつけの病院に相談するか、場合によっては救急隊を呼んで意に沿わない心肺蘇生を受けてしまうこと、警察が介入してしまったこともあります。在宅で終末期ケアをしている医師として、胸の痛くなるような場面に急に遭遇することになるわけですので、(もう少し早くご相談いただければ、、、)という無力感に苛まれることになります。

よくあるのは②のケースです。

「ガンに急変(急に体調が変化すること)はつきもの」であり、患者さんにあとどのくらいの時間が残されているかを推察するのは、私たちのように終末期ケアの経験が豊富にあっても容易ではありません。患者さんの体調の変化を注意深く診させていただきながら、目算を告げることになります。そして、その私たちの目算と特にご家族の見込みには、しばしば大きな乖離があります。例えば、先日初診時に、私が「あと数日でしょう」と慎重に告げたところ、「まだ23ヶ月はもつと思っていました」とご家族が目を丸くされました。医師でも目算することが容易ではないのですから、ご家族がこのような反応をされることは無理のない話です。

私は、少なくとも数週間前には、残された時間をお伝えするようにはしています。告知から数日はショックを受けられることが多いですが、徐々に受け入れられ、患者さんもご家族も残された時間に向き合い、やり残したことがないように悔いなく、穏やかに人生という壮大な物語に幕を下ろしてほしいと願っているからです。日本の文化的には残された時間の告知というのはまだまだ残酷であるという風潮ですが、私の経験では、「予後を伝えてもらって良かったです」とご満足していただけることはあっても、「予後を伝えたせいで後悔しています」と言われたことは一度もありません。

終末期ケアに関わる医師としても、十分な時間をかけることができると、患者さんやご家族と信頼関係が深まり、お人柄や人生観にまで寄り添った、その人らしいより温かいケアをサポートすることができます。

訪問診療開始のタイミングについて迷われる方も多いでしょうが、日々刻々と移ろいゆくがん患者さんに関わることですので、

・「最期は必ず自宅で」とまでは考えていないけど、できるだけ自宅で長く過ごしたいとお考えの患者さん(療養場所についてもご相談しながら最適なアドバイスが可能です)

・残念ですが、主治医の先生から「積極的な治療は難しい」と告げられた患者さん

・積極的な治療中ではあるが、念のため先のことを考えておきたい患者さん、ご家族

といったポイントに少しでも当てはまる方がおられましたら、

・病院の相談室

・地域包括ケアセンター

・ケアマネージャー、訪問看護師やヘルパーさん

などに早めにご相談いただけると嬉しいです。プロの方々が親身になってアドバイスしてくださいます。もちろん、当クリニックに直接ご相談いただいても構いません。当クリニックには経験豊富な医師、看護師、相談員がいつでもご相談をお待ちしております。ご相談内容に応じて訪問診療のタイミングをお伝えさせていただいております。また、お住まいの住所によってはご自宅近くの訪問診療クリニックをご紹介します。

これまで一生懸命生き抜いてきた最期のひと時を、その人らしく、悔いなく、穏やかにお過ごしいただけるように、これからも地域の皆様のお力添えをさせていただきたいと思っております。